やっぱり俺たち個性的かも
人間の個性は何で決まっているのか?
とりあえず染色体上に載っている遺伝情報と、生まれてからの
経験や環境によって決まっている、ってことは我々人類は経験と
遺伝学などの研究で理解してきた。
その後、ヒトゲノムプロジェクトなどで染色体上の遺伝情報が詳しく
研究され、他の生物との比較なども行なわれ、人間とチンパンジーは
非常に多数の同じ遺伝子を持っていることなどがわかった。
人間同士の差異というものは、ゲノム上の塩基配列の1塩基の違い、
いわゆる一塩基多型(SNP)や微妙な挿入、欠失などにより起こっており
それ以上の違いは病気などを引き起こす。
…そんな風に考えていた時期が俺にもありました。
そんな風に考えていた時期
え、違うのかって?そういう部分もあると思うけど、まぁもう少し話を
進めてから説明しようか。
さて、ヒトゲノム解析が終わろうとしていた頃、世界的な新たなプロジェクトが
始まろうとしていた。
ハップマッププロジェクト(HapMap
Project:http://www.hapmap.org/index.html.ja)である。
このプロジェクトはヒト遺伝子、染色体上の塩基配列などの個人間、人種間の
比較を行なうことを目的としたプロジェクトである。
彼らの目的は微小な塩基置換を探すことにあった。
ヒトどうしの違いは微妙な遺伝情報の違いにある、そんな風に考えていたはずだからである。
みんなそうだった。たぶん。
ところが、である…
実際に微小な塩基置換を探し出すと、どうにもおかしな点が出てくる。
対象となった被験者は全員健常人である。
それなのに、特定の塩基置換が見つからないということがしばしば出てきた。
研究者たちは、まぁ実験ミスだろうなぁ、などと思いそういったデータを
とりあえず保留していたわけである。
さて、一通り微小な塩基置換を調べ終わった後、今までに溜まってた怪しい
データを調べ始めることにしたわけなのだが…
恐ろしいことがわかり始めた。
親子間の関係を調べたり、染色体上の位置をできるだけ正確に調べたりして
みたら、どうやら想像以上に健常人どうしであっても染色体に大きな差異が
存在するということなのである。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/305/5683/525
存在するだけではなく、ゲノム構造多型研究者の一人Conrad(だったと思う)は
「これはまだ氷山の一角に過ぎない。
いずれゲノムの海の底から第二第三の構造多型が…」
と語っていた(後半ウソ)
そしてついに2006年11月、natureに世界各国のゲノム構造多型解析チームが
とんでもない論文を発表する。
とんでもない、という言葉をあえて使わせてもらいたい。
なぜならこれまでに考えられていた常識がぶっ転がされたわけだからである。
http://www.nature.com/nature/journal/v444/n7118/abs/nature05329_ja.html
なんとヒトゲノム領域のうち、全体の12%の領域に大規模な構造多型が
存在するというのである。これは恐ろしい数字である…
ヒト同士の違いは今まで0.3%ほどの微妙な塩基多型によって決まっていると
考えられていたわけである。
範囲だけで言うとその40倍ですよ40倍。
組み合わせだから想像を絶する値になるわけで…そりゃ個人差ってこれまで
考えられていた以上にあるって話になるよね。
想定外に遺伝子があったりなかったりするんだよ。よく生きていけるな俺たち。
となると、そもそも正常って何なんだぜ?って話になってくる。
元気で特に病気も抱えてなければ健康、そりゃそうなんだけど、健康と
正常とか普通って一緒なのか?一体何が正しいのか?
どのくらいの遺伝子がなくっても人間なんだ、って話になってくる。
どっからどこまで人間なんだ?うおおおぉぉぉわけわかんねぇ!
そう、俺たちの戦いはこれからだ!
…構造多型研究者の先生方の次回作(論文)にご期待ください。
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